考証ブログからAs Blogへ③

はじめに

As Blog(アズブログ)は、As Loop(アズループ)がアロマンティック/アセクシュアル・スペクトラムについて紹介するコラム集です。

NHKよるドラ「恋せぬふたり」の「考証チームブログ」の概要版をお届けするこの企画も今回が最終回です。ぜひご覧ください。

 

ドラマでは、『アロマンティックやアセクシュアルの方向けのイベント』が描かれていました。

本ドラマがパートナー関係について扱うことが多かったこともあり、

・一人で生きていくのが楽しい人

・自認に迷っている人

・ロマンティック・アセクシュアルの人(他者に恋愛感情を抱き、性的に惹かれない)

・同居はしていないパートナー関係

・同性同士のパートナー関係

など、可能な限り様々な当事者の姿が描かれるようお願いしていました。

 

また、イベントのシーンでは当事者の方にもご協力いただきました。事前取材を引き受けてくださっていた方を中心に合計6名、当事者役として出演していました。

 

そして、名札にもアロマンティックやアセクシュアルの多様性が出るように工夫をしました。セクシュアリティの違いや表記の仕方の違い、中には白紙の人もいるなど、様々な要素を取り入れるよう、検討しました。

名札には「ノンセクシュアル」という言葉も使用しました。ノンセクシュアルはロマンティック・アセクシュアルとほぼ同じ意味で使われ、主に日本で定着している用語の一つです。ロマンティック・アセクシュアルを自認する人のうち、約8割がノンセクシュアルという言葉で自分を表現(認識)しているという調査結果もあります(三宅・平森

2021)。  

 

以上の内容について、私たちが行った「Aro/Ace調査2020」の結果も見ていきましょう。今回は「交流会へ参加したいか否か(理想の参加頻度)」と「アイデンティティの組み合わせ」についてご紹介します。

交流会へ参加したいか否か

Aro/Ace調査2020では理想の交流会への参加頻度について質問しています。

その結果が次のグラフです。

上のグラフにあるように、もっとも割合が高かったのは、「参加する必要性を感じていない」で、41.3%でした。「参加したくない」の割合は5.9%だったので、参加の意欲がないと思われる回答が45%以上だったことがわかります。一方、参加する意欲があると思われる項目「年に少なくとも1回」(22.9%)、「半年に少なくとも1回」(13.4%)、「3か月に少なくとも1回」(7.4%)、「1か月に少なくとも1回」(2.8%)、「半月に少なくとも1回」(0.6%)、「一度は参加してみたい」(1.5%)を合わせると50%弱になります。

 

ここから、アロマンティックやアセクシュアルをはじめとする当事者が集まる交流会に参加したいと思うか否かは人によって異なり、一定の頻度で参加したいと思う人もいる一方で、そうではない人もいることがわかります。

対象や参加人数、形式など、イベント・交流会のタイプも本当に多様なので、ご興味がある方は自分に合うものを探してみると良いかもしれません。

アイデンティティの組み合わせ

すでにご紹介した通り、イベントのシーンではアロマンティック・アセクシュアル以外のアイデンティティの名札も複数用意してもらいました。Aro/Ace調査2020も同じように多様なカテゴリーを自認の選択肢として用意しました。

Aro/Ace調査2020で使用した、アロマンティック以外の恋愛的指向アイデンティティは次の通りです。

 

*各カテゴリーの定義は複数あるため、説明をすることでかえって答えづらくならないよう質問票上では定義を明示せず、回答者の解釈に委ねました。したがって、以下の説明は本ブログを理解しやすくするために当事者コミュニティ内でよく見られる定義を便宜上記載したものです。また、調査票上ではロマンティックは「ロマンティック【恋愛的に惹かれる】」、グレイロマンティックは「グレイロマンティック/グレイアロマンティック」と表記していました。

Aro/Ace調査2020で使用した、アセクシュアル以外の性的指向アイデンティティは次の通りです。

 

*各カテゴリーの定義については恋愛的指向アイデンティティと同様です。調査票上の表記は、セクシュアルは「セクシュアル【性的に惹かれる】」、グレイセクシュアルは「グレイセクシュアル/グレイアセクシュアル」でした。なお、調査設計上のエラーにより、性的指向アイデンティティには「クエスチョニング」がデフォルトの選択肢に含まれていないため、結果の解釈には留意が必要です。

なお、以降では各アイデンティティの名前を()のように記載しております。

 

そして、Aro/Ace調査2020では、恋愛的指向アイデンティティと性的指向アイデンティティの組み合わせの割合を集計しました。

その結果が次の表です。

もっとも割合が高かったのは「アロマ×アセク」で37.4%でした。次に多かったのが「ロマ×アセク」で、10.4%です。「アロマ×セク」は5.5%、「デミロマ×デミセク」は4.7%、「Q×アセク」は4.4%という結果でした。そのほかは、「デミロマ×アセク」が3.5%、「グレイロマ×アセク」が3.4%、「リスロマ×アセク」が2.8%、「グレイロマ×グレイセク」が2.8%でした。なお、表に記載していない組み合わせも多数ありました。

 

ここから、Aro/Ace調査2020では、アロマンティック・アセクシュアルの割合がとくに高いことがわかります。アロマンティック・アセクシュアル以外では、ロマンティック・アセクシュアルの割合が高い結果でした。

しかし、アセクシュアルを自認する人の中で、恋愛的に惹かれない人よりも惹かれる人の方が多い可能性が報告されており(Hiramori and Kamano 2020)、Aro/Ace調査2020がロマンティック・アセクシュアルを自認する人の回答を十分に得られなかった可能性もあります。

 

さらに、上記の分布が広く一般に適用できると仮定しても、ドラマで中心に扱われていたアロマンティック・アセクシュアルが、当事者コミュニティの中で4割に満たないという結果は注目に値します。それだけアロマンティックやアセクシュアルに関連するセクシュアリティは多様であるということをぜひ知っていただければと思います。


(中村):ドラマ内で結婚について取り上げられるシーンがありました。アロマンティックやアセクシュアルだからといって結婚をしないというわけではなく、結婚を望んでいる人が居ることもぜひ知っておいてほしいですね。

 

(三宅):それと、「アセクシュアルだから子どもを持つことはできないのでは?」といった意見も見られましたが、子どもを持つ、育てるといっても今は養子含めいろんな方法があるので、アセクシュアルは子どもを持てないというわけじゃないことも伝えたいですね。実際に子育てをしている人もいますから。

 

(今徳):それでは、「子ども」と「結婚」について見ていきましょう。

子どもを望むか否か

Aro/Ace調査2020では「子どもを望むか否か」について質問しています。

その結果が次のグラフです。

もっとも割合が高かったのは、「望まない」で、57.3%でした。ここに「あまり望まない」(13.6%)を合わせると、約70%になります。一方、「望む」(4.7%)と「やや望む」(9.0%)を合わせた値は約13%でした。「どちらでもない」は7.7%、「考えたことがない」は6.5%、「その他」は1.1%でした。

 

ここから、アロマンティック・アセクシュアルの当事者の中では、子どもを「(あまり)望まない」方が多い可能性が示唆されます。しかしながら、高橋が子どもについて複雑な思いを抱えているように、望まないという回答をした人にもそれぞれ背景や事情があり、単純な解釈はできません

そして、子どもを望むという人もいるという事実は数値の大小にかかわらず認識する必要があります。

 

今回は紹介できませんでしたが、実子を望むのか、実際に子どもを育てているのかなどについては、参考文献に記載した『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020調査結果報告書』(Aro/Ace調査実行委員会2021)をご覧ください。

結婚を望むか否か

Aro/Ace調査2020では「法律婚を望むか否か」についても質問しています。

その結果が次のグラフです。

グラフの通り、もっとも割合が高かったのは、「望まない」で、46.2%でした。ここに「あまり望まない」(15.9%)を合わせると、62.0%になります。一方、「望む」(5.0%)と「やや望む」(14.1%)を合わせた値は約19%でした。「どちらでもない」は18.9%でした。

 

ここから、結婚(法律婚)を「(あまり)望まない」方が、アロマンティック・アセクシュアルの当事者の中では多い可能性が指摘できます。しかしながら、上記の子どもに関する質問と同様に、「(あまり)望まない」という回答に対する解釈は慎重に行う必要があります。そして、結婚を望むという回答が一定数あることはもちろんのこと、「どちらでもない」が「(やや)望む」と同程度の割合だったことは注目に値します(子どもに関する質問とは選択肢が異なるため比較はできません)。

 

この質問に関連して、『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020調査結果報告書』(Aro/Ace調査実行委員会2021)では、結婚の経験や、事実婚・同性パートナーシップ等を望むか否かについても紹介しています。ご興味がある方はぜひご覧ください。

考証について

(中村):考証としてドラマに関わって、いかがでしたか?

 

(今徳):こういう作品が作られること自体に意義があったような気がします。今後にも期待したいです。

 

(三宅):アロマアセクではないと思っている人がドラマを見てこれまでの自分の言動を振り返るきっかけになったこと、人が変化していく過程を見せることで相互理解の可能性を提示できたことは大きいと思います。

 

(中村):そもそもアロマアセクの知名度が低い中で放映できたことが大きいですよね。このドラマで知ったという人も多くいらっしゃると思うので、これから少しずつ社会が生きやすくなったら良いなと思います。本作をきっかけに性愛や恋愛、関係性について改めて考えるきっかけになることを願います

 

(今徳):ただ、当然ではありますが、本作でアロマンティックやアセクシュアルの全てが描けたわけではありませんし、不十分だったと感じているところもあります。

 

(三宅):良いところも批判すべきところもあったと思いますので、今後もぜひ皆さんの率直な意見を聞いていきたいですね。

考証ブログについて

これまで考証チームブログでは、「恋せぬふたり」の振り返りをしながら、本編と関連する調査として『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020』(Aro/Ace調査実行委員会 2021)を紹介するというスタイルでお送りしてきました。ドラマのブログとしては少し珍しい形式だったかもしれませんが、「勉強になった」、「もっと知りたい」という声もいただくことがあり、考証チーム一同、とても光栄に思います。

 

このブログで調査結果を紹介するようになったのは、ドラマの制作中に私たちが何か意見を述べる際の資料として引用していたことがきっかけです。これには、制作に関わる人たちに「アロマンティック・アセクシュアルは●●だろう」ではなく、「色々な人がいるけれど、今回はこういうキャラクターにしよう」というように多様性を意識しながら制作してもらいたいという思いがありました。しかし、多様性を意識しても描かれるキャラクターの数には限界があります。そんな時に、思いついたのがブログでした。本編では描ききれなかった部分を解説するブログを書きたいとお願いをして実現したのが考証チームブログです。

 

以上のような経緯で、ドラマの内容と関連する調査結果を紹介するスタイルが確立したわけですが、最後に私たちが調査結果を初めて発表した際に述べたメッセージをご紹介したいと思います。

 

以下は、その際に使用したスライド資料です。

ブログを読んでくださっている皆さんに、私たちが伝えたいことは調査結果を発表した時と変わりません。アロマンティックやアセクシュアルをはじめとする多様なセクシュアリティの人がいること、同じセクシュアリティでも多様性があること、恋愛や性愛を前提にしないことなどです。これらのメッセージをどうか忘れないでいただければ幸いです。

今後のAsBlogについて

以上で、「恋せぬふたり」考証チームブログ概要版は終了となります。

 

今後は、不定期でこれまでと同じようにAro/Aceについて調査結果を参照しながら紹介するほか、用語の解説当事者の体験談など様々な記事をお届けしたいと考えています。

 

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

As Loop一同


【参考文献】 

Aro/Ace調査実行委員会(2021)『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020調査結果報告書』(2022年4月14日取得)

 

Aro/Ace調査実行委員会(2021)『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020概要報告資料(210425修正版)』(2022年4月14日取得)

 

三宅大二郎・平森大規(2021)「日本におけるアロマンティック/アセクシュアル・スペクトラムの人口学的多様性――『Aro/Ace調査2020』の分析結果から」『人口問題研究』第77巻,第2号,pp.

206-32.

 

Hiramori, D. and Kamano, S. (2020) "Asking about Sexual Orientation and Gender Identity in Social Surveys in Japan: Findings from the Osaka City Residents’ Survey and Related Preparatory Studies, " Journal of Population Problems, Vol. 76, No. 4, pp. 443-466.

 

【調査概要】

調査名:アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020(Aro/Ace調査2020)

調査方法:ウェブ上のアンケートフォームを利用(Googleフォーム)

 *ウェブサイト、Twitter、LINEグループ等で周知 

回収期間:2020年6月1日12:00~2020年6月30日12:00 

調査対象:以下の1.~3.全てに該当する方 

1.アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム

(アロマンティック、アセクシュアル、ノンセクシュアル、デミセクシュアル、デミロマンティック、リスセクシュアル、リスロマンティックなどその他周辺のセクシュアリティ)を自認している、またはそれに近い、そうかもしれないと思っている方  

2.日本語の読み書きをする方(国籍、居住地は問わない) 

3.年齢が回答時13歳以上の方

総回答数:1693回答(有効回答:1685)

最大設問数:98問(内5問が必須項目)