はじめに
このブログは、As Loop(アズループ)がアロマンティック/アセクシュアル・スペクトラムについて紹介するコラム集です。
前回に引き続き、NHKよるドラ「恋せぬふたり」の「考証チームブログ」の概要版をお届けします。
*以下、一部性的な事柄について取り扱っています
アンケートについて
(中村):実は、Aro/Ace調査2020の質問をアレンジして作ったアンケートがドラマ内で使われていました。
(今徳):そうですね。こういったアンケートは、当事者の方が自分の状態を整理したり、他者との感覚のすり合わせなどをしたりする際に使われることがありますよね。
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(三宅):そして、このアンケートをきっかけに、過去に恋人がいた人もアロマンティック・アセクシュアルを自認することが描かれました。ここで、「過去に恋人がいた人もアロマンティック・アセクシュアルを自認するの?」と疑問に思うかもしれません。
(今徳):それについてはぜひこの後のデータを見てほしいですね。その一方で、「付き合ったことがないけど、自認していいのだろうか?」と悩む人もよく見かけます。きっと、これは異性愛ではない人などが言われる、「まずは(異性との恋愛などを)試してみれば?」という考え方とセットで出てくる要素なのだと思います。別に無理に付き合ってみたりしなくても、何か特定の条件をつけなくても(○○だからアロマンティック/アセクシュアルだ、など)いいんじゃないかなと思います。
(中村):また、恋人がいる(いた)ことと、恋愛的な要素がわかるか否かはそれぞれ別のことだということも大事かなと思います。「恋愛/性愛がない世界」を想像いただいて、「こういう世界なんだ!」とすぐにしっくり来る人もいれば、そうでない方もいると思います。私は「恋愛/性愛がない世界」で生きている感覚なので、恋愛・性愛のアンテナはそう簡単に取得できないんですよね…。私と似ている方もいるんじゃないかなぁと思っています。
(今徳):もちろん、「恋愛/性愛」の大枠を認識したうえで、それが自分には無いと自認している人もいるので、それも色々ですね。
(中村):知っていけば知っていくほど、多様であることがわかりますね。
ということで、今回はこれまで出た話題とも関連する「過去の恋人人数」と「性行為経験人数」について見ていきましょう。
過去の恋人人数
ここからは、私たちが行った「Aro/Ace調査2020」をもとに、実際のアロマンティック・アセクシュアルの当事者についてお話していきたいと思います。
上記のアンケートには「恋人・パートナー」に関する質問がいくつかありました。
「過去に恋人がいた」という人もいるという話をしましたが、データではどうなるでしょうか。
Aro/Ace調査2020では過去の恋人人数について質問しています(複数回答)。
その結果が次のグラフです。
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もっとも割合が高かったのが「0人」で54.1%でした。「1人」は18.9%、「2人」は10.7%、「3~5人」は13.1%でした。グラフにあるように、割合は高くありませんがそれ以上の人数だったという回答もありました。
ここから、恋人がいたことがあるという回答がある一方で、恋人がいたことがないという回答が約5割を占めていることがわかります。
この結果から、過去に恋人がいたかどうかということは、直接自認には関係ない可能性が高いと思われます。
性行為経験人数
Aro/Ace調査2020では、性行為経験人数についても質問しているため、そちらも併せて見ていきましょう。
その結果が次のグラフです。
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過去の恋人の人数と同様に、もっとも割合が高かったのは「0人」(71.2%)でした。「1人」は13.6%、「2人」は4.6%、「3~5人」は6.5%でした。グラフにあるように、この質問では割合は高くありませんがそれ以上の人数だった回答もありました。
このように、経験があるという回答も一定数ありますが、経験がないという回答が多いことがわかります。
一方で、3割程度は性行為の経験があることから、「アロマンティック・アセクシュアル=性行為の経験がない」とは言えないことが明らかになりました。
以上のように、実際の当事者の経験は多様であることがわかると思います。
(今徳):ドラマ内で、推しの話も出てきましたね。アロマンティック・アセクシュアルだと「他の人に興味ないんだね」というふうに見られることもあるようですが、「推し」がいる人もいれば、いない人もいる。本当に人それぞれですね。
(中村):また、人それぞれというと、性的な話題に対する感じ方も多様ですよね。
(今徳):そうですね。性的/恋愛的な話題は、アロマンティック・アセクシュアルを自認している・いないに限らず苦手な方もいるので気を付けたいですね。
(三宅):そうですね。ぜひこちらも調査をもとに見ていきましょう。「性的な話に対する嫌悪感」と「恋愛的な話に対する嫌悪感」についてご紹介します。
性的な話に対する嫌悪感
Aro/Ace調査2020では他の人の性的な話を聞いたり、自分の性的な話を聞かれたりすることに対する嫌悪感について質問しています(複数回答)。
その結果が次のグラフです。
*選択肢を一部省略しています
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上のグラフにあるように、「自分の性的な話を聞かれる」に嫌悪感を覚えるという回答の割合は77.8%に上りました。一方、「他者の性的な話を聞く」は8.1%でした。「自分の性的な話を聞かれる」と「他者の性的な話を聞く」の値は約70ポイントの差があることがわかります。一方、「どれにも嫌悪感を覚えない」という回答の割合は16.0%でした。
ここから、他者が話す性的な話を聞くことに比べて、他の人から自分の性的な話について聞かれる事の方が嫌悪感を覚える割合が高いことがわかります。これはもしかすると、アロマンティック・アセクシュアルを自認する人以外でもあてはまるかもしれません。
「どれにも嫌悪感を覚えない」という回答もありますので一概には言えませんが、ただ少なくとも、自分の性的な話について聞かれたくない人がいるという事実は認識しておいた方がいいと思われます。
恋愛的な話に対する嫌悪感
Aro/Ace調査2020では、他の人の恋愛的な話を聞いたり、自分の恋愛的な話を聞かれたりすることに対する嫌悪感についても質問しています(複数回答)。
その結果が次のグラフです。
![](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s978ae81fe183e8a3/image/i42126fa6937dfafb/version/1650515735/image.png)
「自分の恋愛的な話を聞かれる」に嫌悪感を覚えるという回答の割合は67.1%でした。一方、「他者の恋愛話を聞く」は4.6%でした。「自分の恋愛的な話を聞かれる」と「他者の恋愛話を聞く」の値は約60ポイントの差があることがわかります。一方、「どれにも嫌悪感を覚えない」という回答の割合は26.1%でした。
ここから、性的な話と同様に、他者の恋愛話を聞くことに比べて、他の人から自分の恋愛話について聞かれる事の方が嫌悪感を覚える割合が高いことがわかります。これも、もしかするとアロマンティック・アセクシュアルを自認する人以外にもあてはまるかもしれません。
「どれにも嫌悪感を覚えない」という回答もありますので一概には言えませんが、少なくとも恋愛話は誰もが楽しめる、または誰もが好きな話題というわけではないことは広く知られる必要があると思われます。
(中村):ドラマ内で、アセクシュアルに関する書籍が登場しましたね。登場人物がそれを読んで勉強していたという描写があり、印象的でした。
(三宅):実はドラマ内で登場した本は実際に存在する本なので、気になる方はぜひ読んでみてください。(ページの最後、参考文献に記載しています)。
(今徳):今回は、もしかしたら本だけではわからないかもしれない、他の人から恋愛感情を向けられることに関してのデータを見ていきましょう。
恋愛感情を向けられることに嫌悪感があるか
当たり前のことかもしれませんが、アロマンティック・アセクシュアルの当事者が、他の人から恋愛感情を持たれて告白されるということはあります。
そんな時、アロマンティック・アセクシュアルの当事者はどう感じるのでしょうか。
Aro/Ace調査2020では、他の人から恋愛感情を向けられることに対する嫌悪感について質問しています(複数回答)。
その結果が次のグラフです。
*選択肢を一部省略しています
![](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s978ae81fe183e8a3/image/icadeaeb69399336b/version/1650515790/image.png)
「恋愛感情を向けられる」ことに嫌悪感を覚えるという回答の割合は51.5%でした。また、「自身に対する恋愛感情があることを告げられる」は49.8%、「交際を申し込まれる」は47.4%でした。「恋愛感情を向けられる」ことに嫌悪感を覚える割合が一番高いですが、ほとんど割合に差はありません。一方、「どれにも嫌悪感を覚えない」という回答の割合は12.4%でした。
ここから、他者から恋愛感情を向けられることに嫌悪感がある人もいれば、ない人もいることが分かります。
アロマンティック・アセクシュアルを自認しているすべての人が恋愛的なアプローチを受けるのが苦手(苦痛)というわけではありませんが、人によって感じ方が異なることも事実ですのでこの点は留意する必要があります。
例えば、一方的に恋愛感情を伝えるのではなく、相手とコミュニケーションを取りながら、お互いが負担のない関係構築を目指せると良いと思います。そして、これはきっとアロマンティック・アセクシュアル以外の人の場合でも同じなのではないでしょうか。
以上、今回のAs Blogは恋せぬふたり考証ブログの概要版第2弾ということで、ドラマ内で使われたアンケート、過去の恋人人数や性的・恋愛的な話に対する嫌悪感、恋愛感情を向けられることに対する嫌悪感についてご紹介しました。
次回で恋せぬふたり考証ブログのアーカイブ企画は終了となります。次回もぜひご覧ください。
【参考文献】
Aro/Ace調査実行委員会(2021)『アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020調査結果報告書』(2022年4月13日取得)
デッカー、J.S.著、上田勢子訳(2019)『見えない性的指向アセクシュアルのすべて―誰にも性的魅力を感じない私たちについて』明石書店
【調査概要】
調査名:アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020(Aro/Ace調査2020)
調査方法:ウェブ上のアンケートフォームを利用(Googleフォーム)
*ウェブサイト、Twitter、LINEグループ等で周知
回収期間:2020年6月1日12:00~2020年6月30日12:00
調査対象:以下の1.~3.全てに該当する方
1.アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム
(アロマンティック、アセクシュアル、ノンセクシュアル、デミセクシュアル、デミロマンティック、リスセクシュアル、リスロマンティックなどその他周辺のセクシュアリティ)を自認している、またはそれに近い、そうかもしれないと思っている方
2.日本語の読み書きをする方(国籍、居住地は問わない)
3.年齢が回答時13歳以上の方
総回答数:1693回答(有効回答:1685)
最大設問数:98問(内5問が必須項目)